小説
『コーヒー・ドロップ』

あらすじ

 大学生、高屋直之には忘れられない人がいた。
 喫茶店でのバイトの帰り道、偶然にも意中の人、高校の部活動で一緒だった先輩、折田裕子と再会する。
 似つかわしくない華美な化粧と服装に、鬼のような形相、一筋の涙。
 直之は詳しい話を聞くことなく、先輩を家に招いて、泊めた。
 男女のそれらしいことはなく、あくまでも親しい先輩後輩として。
 数日が過ぎ、やはりこのままではいけないと、直之は嫌がる裕子に付き添い、彼女の住むマンションに向かった。
 エントランスですれ違ったいけ好かない男女と、再びの先輩の涙。
 自暴自棄になる先輩に、直之は秘めてきた本心を打ち明ける。
「先輩は、いい女です」
 翌朝、裕子の姿はなかった。
 書き置きから、自らの問題にケリをつけに行ったのだと知る。
 いつものようにコーヒーを淹れて、結局、一番大事なことは何一つ伝えられなかったと、苦味を噛み締めた。
 春の訪れる頃、裕子は戻ってくる。
 もう好きという気持ちは分からないけれど、ただ直之のそばにいたいと告げる彼女に、直之も想いを伝える。
「好きです。先輩の一番近くに居たい」
 裕子は八重歯をのぞかせて微笑んだ。

コーヒー・ドロップ
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